CALENDAR
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  
<< November 2017 >>
NEW ENTRIES
RECENT COMMENTS
ARCHIVES
MOBILE
qrcode
LINKS
PROFILE
OTHERS
 
視聴味覚演芸制作者会議軍団「囲碁お見知りおきを」団員、中原由貴のお話。
ユーアーマイヒーロー
0

    その日を楽しみにすればするほど寝坊するか何か事件を引き起こすかして、行きたい時間にその場所に行けなくなる、と私の人生は相場が決まっている。そう相場が決まっていると知っているなら何かしら対策やら準備やらが出来そうなものだが、それが出来ないがゆえに相場が決まっているのである。

     

    簡単に言うと神を見た、と神をも恐れぬ発言をしてしまった5月18日の夜、私はどこにいたかというと東京駅付近にいた。この神のような人のことについては、これまで「かっこいい」とか「いちばん好きなドラマーだ」とかなかなか言えず(言ってたけど)、気軽に口にすると口が腫れるような気がして、実現して欲しいと願う夢は人に話さずに黙っておくとよい、というのと似たような感じで大事に大事に取り扱って来たが、どうしてもこの興奮を黙っていられないのでついに今日ここに書いてしまう。

     

    5月18日の午後5時に用事が済んで、数ヶ月前に予約したライブは8時オープン9時スタート、自由席だから8時には着くように行こう、だったら7時に出ればいいからあと2時間あるな、と思ってしまったのが運のツキであった。あと2時間あるな、の「な」くらいで猛烈な睡魔が襲って来たのである。

     

    ちょっと30分くらいうたた寝しようかな、と思ったのも運のツキであった。うたた寝しようかな、の「な」くらいでもう眠りに落ちてしまったのである。その次に意識が戻ったのは7時50分。えええええええ!!!と思ったが、私は努めて平然と準備をした。10分で出れば開演には間に合う。プリティなあの人がドラムに座るところを見逃すなんて失態は絶対にないはずだ。こういう時こそ自分を信じることが大切だ。たぶん脈が300くらいになっていたが努めて平然と準備をして家を出た。

     

    気が焦っている上に脈が300くらいなもんで、最寄り駅に到着したときは汗だくだった。とにかくやって来た電車に飛び乗り、一路東京駅へ。降りたらすぐに最短距離で会場に向かえるよう、電車に乗っている間に地図をチェックしておこう。と、最近購入したばかりのスマートフォンを開くべく、ジャケットのポケットに手を入れた。

     

    ポケットは空っぽだった。脈が500くらいに跳ね上がった。いやいやいやいや。東京駅を出てからどっちへ行けばいいのかわからず1時間彷徨ってライブを観られなかった、というオチがふと頭に浮かんで脂汗が出た。カバンの中身を全部膝の上にひっくり返して探したが、カバンの中にもない。そういえば今日カバンを替えたときに中身を入れ替えて、机の上にスマホを置いたまま出て来てしまったのだろうか。膝の上にひっくり返したカバンの中身をカバンに戻す手が震えてバラバラと床に落ちた。それらを拾おうと屈んだら頭に血が上って、ますます後ろ向きな考えに支配され、もうライブは観られないような気がして激しく落ち込んで来た。第一、ネットで予約したのが私だっていうのを受付でどうやって証明するんだろうか。スマホで予約完了のメールをすぐ見せられるようにスクショまで撮って準備した頃の私は希望に満ちあふれていた。

     

    呆然としながらカバンの中身を戻し終わり、少し落ち着こうと背もたれに寄りかかった。痛い。腰の辺りに何かが当たっている。手でジャケットの背中を触ってみた。固い。そして四角い。あああああ!!!と急いでジャケットを脱いで見てみると、ジャケットの背中の一番下がスマホ型に浮き出ている。もう一度ポケットに手を入れてみると、底が破れていた。ポケットの底からスマホが出てジャケットの表生地と裏生地の間に落ち、背中に行っていたのだった。

     

    パンツのゴムが切れて片方の端が奥に入り込んでしまった時に穴から引っ張り出すときの要領で、スマホをなんとかポケットの穴のところまで持って来て、無事に救出した。よかったこれでライブが観られる、と涙ぐんでいると御茶ノ水。もう東京駅まで時間が無い。急いで地図を見て、とにかくどの改札口から出ればいいかを頭に叩き込んだ。

     

    ホームに降り立った私は、マイノリティ・リポートのトム・クルーズのような無駄のない動きで最寄りのエスカレーターの右側を陣取り、流れるように下まで滑り降りて行った。あまりの無駄の無さにおそらく周囲から驚きと羨望の眼差しで見られていた。そして「南口」を瞬時に探し出すはずが、「八重洲南口」と「丸の内南口」という2つの標示が目に入った。それは聞いていない。そんなの地図に出ていない。再び膝と手が震えだした。時計を見ると8時55分。あと5分で彼がドラムに座ってしまうというのに私はまだ改札を出てもいない。

     

    私の内なる声が「八重洲南口だ。八重洲南口へ行け」と言ったので、丸の内南口へ行った。店から出るとほぼ行きたい方角と逆に歩き出すクセがあるので、こういう時は本能の逆を行けばよい。丸の内南口を出て地図通りと思われる道を行くとすぐに見えてきた。あったああああ!この時、時間は8時58分。

     

    もちろん改札でタッチしてからはずっと血反吐寸前の全力疾走である。建物の入り口に看板を発見。すぐそこで彼らがもうスタンバっているかと思うと、一気に興奮が全身を駆け巡った。顔が笑うのを止められない。やった。私はついにやったのだ。

     

    しかし難関はここからだった。ライブハウスは2階なのに下りのエスカレーターしかない。まばらにその空間を品良く楽しむ人々の間を疾風の如く行き来しながら探し回ったが、ない。なんでだーーー!!!とふと見るとエレベーターが!ドアが開いていたほうに飛び乗って2階を押した。この時点でちょうど9時。

     

    汗ってやつは、走っているときには出て来ないで、走り終わって止まったときに一気に出て来る。エレベーターの中の私は汗でドロドロだった。暑い。でももうこれでやっと私はライブへの本当のチケットを手に入れた。よかった。本当によかった。

     

    1階から2階に上るだけなのに一向にドアが開かないな、と思ってふと見ると、ボタンがどこも点いていない。押し損ねたのかもしかして!!!と陥没するほど押してみたが、ランプが点かない。なんで!なんで!!と押せそうなものを片っ端から全部押していたら、

     

    「どうしました!!」

     

    とスピーカーから言われた。非常用ボタンを押してしまったのかな。そんなこともわからないほど気が動転していた。

     

    「2階に行けないんですけども!!」

     

    と言うと「そのエレベーターは2階は止まりません」ガチャ、と切られた。おい。嘘だろう、と試しに「開く」を押してみると、スッとドアが開き、私が乗ったときと同じ風景がそこに広がっていた。時計を見ると9時10分。こんなに急いでいるのに10分もエレベーターの中でただドアを閉めてじっとしてしまっていた。

     

    エレベーターから飛び出した私は再びマイノリティ・リポートに戻ってほとんど平行移動のような雰囲気でまずビルの人をスカウターのような目で探し出し、どうしても今すぐ2階に行きたいんだが、私はどうすればよいだろうか、と尋ねた。

     

    「一度表の扉を出ていただいたら右側にエスカレーターがございます」
    「ええっ!!!そのメインの扉を出るんですか!!!2階に行くのに?」
    「はい。出られてすぐ右でございます」

     

    お兄さんは私の高すぎるテンションとは裏腹にニッコリとジェントルな笑顔で丁寧に言った。しかし私はもう「ございます」の「す」くらいでメインの扉を出て、右を見ていた。エスカレーターがあった。さっきここを通って私はこの建物に入ったというのに。

     

    受付にへばりつくともう中の演奏が聞こえて来て、ドラムに座るところを見られなかった、最初の1音をワクワクしながら待てなかった絶望と、抑えきれない興奮が同時に襲ってきた。そして受付の人と「お名前は」「ぜえぜえぜえ」「あの、お客様、お名前は」「ぜえぜえぜえ」というやり取りをくり返した後、やっと会場の中へと案内された。

     

    そして私は、ついにステージを目の当たりにした。

     

    実は彼を生で観るのはこれで3回目である。正直言うと、今回はたまたま別の人のライブを探してこのホームページを見ていて彼の来日を知ったというラッキーガールだった。そして、彼を引き連れてやって来た「オズ・ノイ」という若者凄腕ギタリストのことはまったく知らなかった。チケットを予約する前にオズ・ノイの映像を観たり音源を聴いたりしたが、今回来日しているメンバーのものは見つけられず、私が最初に見たやつはドラムがデイヴ・ウェックルで、正直に言うと、これはもう全然好きじゃないやつだ、と思った。

     

    そしてぶっちゃけついでに言うと、今回のバンドのベースのウィル・リーのことはよく知らないくせに何回か観ただけでこっそり嫌い認定をしていた。なんかむちゃくちゃ上手いけど好きじゃないタイプだな、と決め込んでいた。実際、ウィル・リーがオズ・ノイとやっている映像は事前に観たが、ふーんという感じだった。言っておくが、今私は完全に自分の無知も無教養も顧みず、正直に好き嫌いを話しているという勇気を称えつつこの文章を読んでいただきたい。そう、私はこのバンド、多分全然好きじゃないだろうな、と思っていたのだった。

     

    それでもなぜチケットを予約したかというと、私が今日その一挙手一投足を目に焼き付けたいと思ってやって来た、ザ・ワールドモーストレコーデッドドラマー、バーナード・プリティ・パーディが全然違うバンドに塗り替えるんじゃないかと思ったからである。

     

    そして、その奇跡が今目の前で起こっていた。バンドはむちゃくちゃ格好良かった。会場に入って数小節聴いた時点で、好きだ!好きだああああ!!!と叫び出すのを堪えるのが大変だった。中途半端なところに突っ立って「イェーー!!!イェェェェ!!!」と拳を振り上げる私をスマートな店員の男性が制した。

     

    「お客様、お一人様ですか」
    「は、はい!!!」
    「こちらの一番後ろの席でよろしいでしょうか」
    「もうここしかないんですか」
    「ここ以外ですと一番前の一番端が空いてますが、何も見えません」
    「ぐむむむむ」
    「こちらの後ろの席がよろしいかと」
    「アリーナにポコっと1席だけ空いてたりとかしませんかねえ」
    「・・・(ほんのり怒)ただ今観て参りますので少しお待ち下さい」


    10秒

     

    「ありませんでした。こちらの席でよろしいですね。どうぞ、さあどうぞ!」

     

    私は一番端の一番後ろの席に座った。座るやいなや次の曲が始まった。ハーフタイムシャッフルである。こ、これは!!!ビデオに収めたい!!!とスマホをビデオモードにして画面をのぞき込んだ途端、

     

    「お客様、撮影は禁じられております」

     

    さっきの人がどこからともなく現れてこう言った。そうですよね。そりゃそうですよね。自分で楽しむだけなのに!と思ったが、食い下がってやり取りしている時間がもったいないのでこれはもう仕方がない。目と耳を皿のようにして、人力録画しようとこれまでにない集中力を発揮して必死に観た。なんて素晴らしいんだろうか。しかも微妙にパーディとウィル・リーを線で結んだ先に自分がいるため、パーディがずっとこっちを見ているような気になる。いや、私を見ている。私にパーディ・シャッフルを伝授しようとしている。私を(本当はウィル・リーを)見ながら叩くそのシャッフルの切れ味と言ったらもう筆舌に尽くしがたいものであった。こんなワクワクするリズムがこの世にあるだろうか。リズムだけで世界を一瞬で塗り替えてしまう、それがザ・ワールドモーストレコーデッドドラマー、バーナード・プリティ・パーディなのである。

     

    もううちの父よりも年上のパーディは、以前生で観てから20年以上は経過しているし、もしかして少し衰えていたりなんかして・・・などと一度でも思った自分を恥じた。ごめんなさい。全盛期と何ら変わらぬそのリズム。リズムを叩いていないときにはオフマイクで無茶苦茶大声で歌っている。陽気さも寸分も変わらない。

     

    そしてもう1つ謝ることがある。ウィル・リーは観ているこちらが踊り出さずにはいられない素敵なベーシストだった。ベースが上手いのはもうここで私が言うのも憚られるほどだが、弾いている姿の楽しそうなこと、そして歌がむちゃくちゃ死ぬほどかっこよくで腰が抜けた。しかも顔もかっこよかった。テキサス・ドライビング・シャッフルにアレンジされたビートルズの「Eight Days A Week」を歌うウィル・リーは、ひっくり返るかっこよさだった。この曲を聴いて私はウィル・リーがどれほどかっこいいかを知り、そしてパーディが実はビートルズで叩いていたというのはやはり嘘だというのを確信した。

     

    そしてまとめてしまって申し訳ないが、オルガンのジェリー・Zとオズ・ノイとこのレジェンド2人の4名で作るBoogaloo Experience Bandは、リスペクトが行き交いながらも愉快で壮絶な最高のバンドだった。ベースがウィル・リーでオルガンがジェリー・Zでドラマーが違う映像もいくつか観たが、今夜のこのバンドはそのどれとも違っていた。人は組み合わせによって出て来る部分が変わるんだなあというのを目の当たりにした夜だった。

     

    興奮してギャーギャー騒いでいたらあっという間にステージは終わってしまい、脳内に焼き付けたパーディ・シャッフルをすぐさま練習すべくスタジオに向かおうとしたら、なんとパーディのスティックや本やCDが売ってる上にサイン会があるというじゃないか。もう22時過ぎているし、スタジオに間に合わなくなるかもしれないが、パーディと握手したらパーディシャッフルが出来るようになるかもしれないし、どうしようぐむむ・・・と悩んでいたら、すぐさま目の前でサイン会が始まってしまった。もうこれは並ぶしかない。

     

    以前、ブルーノートにパーディがチャック・レイニーやコーネル・デュプリーと一緒に来たとき、私はライブが終わって放心状態でトイレからぼんやり出て来たところでパーディにバッタリ会った。ぎゃあああ目の前にパーディが!あのパーディがこっち見て笑っている!!!な、何か言わなければ何か・・・

     

    「サンキュウ!!!」

     

    私がやっとの思いで口から生み落としたのはこの1語だけだった。パーディはほほえみをたたえて首をかしげていた。私はヘラヘラしてその場を去った。この時ほど自分の対応力の無さを悔やんだことはない。いやある。もっといろんなところで悔やんではいるが、この件に関してはこの後何年も悔しさを引きずっていた。

     

    そのリベンジのチャンスが今目の前にある。あと3人のサインが終われば、私はパーディに二言三言は話す時間がもらえそうだ。どうしよう、何て言おう、あの時言おうとしたのは何だったっけ・・・と考えているとまた若干パニックに陥って脂汗が出て来た。いかん。これでは20年前の二の舞になる。落ち着こう。いや落ち着く前に何を言うか考えとかないとすぐに番が

     

    「次の方どうぞ〜お待たせしました」

     

    はっ!と顔を上げると、スタッフのキレイなお姉さんとパーディがこっちを見ている。ぎええええ。ま、まだ心の準備が出来て・・・ええっとなななににサインをしてもらおうか・・・


    「ヘーイ!」
    「あ、あ、あの、イットワズグレイトショウ!!!」
    「サンキュウ!!」
    「・・・」

     

    ここで私が買ったパーディ本を渡してサインをしてもらう。名前を聞かれて答え、パーディはにこにこと笑って「この本、面白いよ。きっと楽しめるよ」と言いながらサインをしてくれる。嘘みたいだ。状況がよく飲み込めない。しかし、私が言いたいのはこんなことじゃない。こんなもう最後かもしれないパーディとの遭遇をこんなことでやり過ごしてはいけない!

     

    「アイアム ア ドラマー!!!」

     

    にこにこと下を向いていたパーディがふっと顔を上げ、こっちを見た。そして「Wow」と言った。

     

    「私はあなたのシャッフルをもう何十年も練習していて、いつか死ぬまでに私のものにするんです」
    「ほんとに??」
    「あなたは私のヒーローです」

     

    言った!言えた!!!そうだこれが言いたかったんだ私は!!!と思わずガッツポーズをする私の前で、パーディが突然頭を抱えた。「なんてことだ!なんてことだ!」と言っている。スタッフの人も心配し始める。するとパーディが

     

    「私のすばらしいクリニックのDVDがあるんだよ。それを観ればきっときみはパーディ・シャッフルを手にすることができる」

     

    ・・・それはもしや私が持っているあの死ぬほど格好いいばかりで何の教則にもならないあのビデオのことですか?と尋ねたかったが、言えなかった。

     

    「3時間半。私のすべてがそこに入っている。あれ観ればいいのに!持って来てあげればよかった!なんで忘れたんだろう!あれ、観ればいいのに!」
    「で、でも今ここでは買えないってことですよね」
    「うん。ちょっと待って」

     

    そう言ってパーディは鞄から名刺を取り出して、私に渡した。メールくれてもいいし、このウェブサイトからもたぶん買えるよ、と言った。流石である。なんというか、心から世界を愛し、そして世界からも愛されていることを確信している男の所作だった。

     

    私は今日パーディからもらったものを全部受け取って、舐め尽くして、確実に我が血肉にするぞ、と固く誓って会場を後にし、急いでスタジオへと向かった。今夜会場を埋め尽くしていたあのたくさんの人たちはみんな今夜パーディたちがくれた興奮を大事に抱えて私のように帰路についているんだろうな、と思うと、全員でまた集まって呑みたいような気持ちになった。

     

    スタジオに駆け込んだのはもう23時を回っていたが、お姉さんが1時間だけいいですよ、と言って入れてくれた。とにかく何から何まで最高の1日であった。


     

    | - | 03:37 | comments(0) | trackbacks(0) | - |